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東京高等裁判所 昭和33年(行ナ)6号 判決

原告 岡薫

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨、原因

原告は、特許庁が昭和三十年抗告審判第九七〇号事件について昭和三十三年一月二十日にした審決を取り消す、訴訟費用は、被告の負担とする、との判決を求め、請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告は、昭和二十九年二月五日、特許庁に対して、「放射能熱源に於ける全反応量調節装置」につき実用新案登録出願をし、同年第三二一七号として係属したが、昭和三十年四月二十三日に拒絶査定を受けたので、同年五月六日抗告審判を請求し、同年抗告審判第九七〇号事件として係属したが、昭和三十三年一月二十日に至つて、右請求は成り立たない、旨の審決がされ、その審決書謄本が同年二月八日原告に送達された。そして、右審決の要旨は、次の三点に帰する。

(一)  実用新案法では図示型状は唯一つでなければならないのに、本願のように「同着想内に於ける類以の例示型状数種」は実用新案として認めない。

(二)  「同着想内に於ける類似の型状数種」では出願要旨不明である。

(三)  各例示型状についてその発揮する作用効果が不明瞭である。

二、右審決の理由は、次に述べるように、真理に反し、違法である。

(一)  実用新案法第一条に「……其ノ物品ノ型ニ付実用新案ノ登録ヲ受クルコトヲ得」とあるのは、「考案内容(着想)を実物化した場合の例としての構造或は組合せ或は型状など」がその本当の意味であり、「…其ノ物品ノ……」と「其ノ」なる語の存在することによつても、右の解釈が正しいと考えられる。したがつて、実用新案の登録請求の範囲として、「……の構造」、或は「……の組合せ」、或は「……の型状」と記載することは現行の慣習であつて、原告の本件出願における記載に違法の点はない。

(二)  本件出願において「同着想内に於ける類似の例示型状数種」としたことも、其の考案によつて生ずる「類似としての」効力範囲のもの(数種型状)であることが明白な場合には、審査の慣行として許容されているところである。本件における図示型状はいずれもきわめて類似であり、その一つが権利であれば、他は容易に類推し得る型状差に過ぎない。

(三)  「同着想内に於ける類似の例示型状が多数記されて在る」ことは、出願要旨を明確なものにしこそすれ、要旨を不明瞭なものにはしない。この点に関する審決の認定は誤つている。

(四)  以上の原告の主張に反し、実用新案登録請求の範囲として「……の構造」、或は「……の組合せ」を認めず、型状に限定し、しかも類似型状記載をも認めずとするも、審査或は審判において訂正命令を出し、「各個の型状毎に出願を分離出願せしめ」或は「当出願に於ては唯一型状だけに削減すべし、と削除せしめ」るべきである。これを行わずして、拒絶査定、拒絶審決をしたことは、特許庁として公務の遂行を誤つたものである。

(五)  審決が本件実用新案の作用効果が不明瞭であるとしたことも、その理論的根拠の明示がなく、単なる独断である。本願要旨は、「其の全反応量を可変とし、又、調節可能ならしめたる原子炉燃料の型状、構造」であり、明瞭に図示されてあつて、本願出願前に公知の諸事項(制御や応急停止に中性子吸収材の制御棒を使つたり、減速材を抜いたりすること、燃料加工成型など)とともに考えれば、不合理な考案ではない。作用効果も明瞭である。なお、「出願前公知の事項は併記せず。」の建前から考案点以外の公知部分は記載しなかつたものである。また、願書本文記載の「放射能物質板」とは、前後の文章の意味からして、「核分裂性物質を含む物質の板」であることは明瞭である。

要するに、本件審決は実用新案法の解釈適用を誤つており、取り消さるべきものである。

三、なお、本件出願が数種の型状に関するものである、という被告の主張は争わない。

第二答弁

被告指定代理人は、主文第一項通りの判決を求め、次のとおり答弁した。

一、原告主張の請求原因事実中、本件実用新案出願、拒絶査定、抗告審決請求及びその請求が成り立たない、旨の審決がそれぞれ原告主張のとおりされ、審決書謄本が原告主張の日に原告に送達されたこと、並びに右審決に原告主張の(三)の要旨を含むことは認めるが、原告主張の審決要旨(一)(二)については、審決は本件出願中に含まれる型は夫々別異の構造のものと認定し、原告の主張するように類似性を認めてはいない。もし、原告のいう「類似の例示型状」が、単なる「型」を意味するものとすれば、本願実用新案の型について、審決中に原告主張の(一)(二)の趣旨の認定のあることを認める。その他、原告の本件審決を違法であると主張する点は、すべて争う。

二、原告の主張は、要するに実用新案の登録対象になるものは、考案、すなわち着想であつて、個々の型はその例示にすぎないという原告独自の理論に立脚しているが、実用新案法第一条には実用新案の登録を受けられるものは「物品の型」に限られることが明記されているので、原告の主張はその立脚点から誤つており、採るに足りない。次に原告は同一着想内の型は類似であるとしているが、型の類否は物品の形状、構造或は組合せの如何により判断されるのであるから、本願に含まれる各種の型を夫々類似であることは到底認め難い。そして、類似でない多数の型を含む本願を要旨明瞭であるともいうことができないのである。

三、また、原告は多数の型を一出願に含め得ないならば、その旨訂正指令又は分割指令を出すべきであると主張しているが、本願の審査において拒絶理由中にすでに「本願は特定の構造について登録を請求しているものではない」旨を指摘しているから、原告のこの主張も当を得ない。なお、実用新案法には、原告の希望するような出願分割の制度はない。

四、原告は、審決が「本願に含まれる個々の型の作用効果も不明瞭である」としたのは不明理由が示されていないから違法であると主張しているが、本件出願の説明書中には作用効果について何も記載されていないから、理由の示しようがないのである。公知部分は記載の要がないという原告の主張も、勝手な解釈であるに過ぎない。

以上のごとく、原告は審決の要旨を把握せず、実用新案法の誤つた認識によつて独自の見解を述べているに過ぎないので、原告の本訴請求は全く理由のないものである。

第三証拠〈省略〉

理由

一、原告がその主張の日に、「放射能熱源に於ける全反応量調節装置」につき実用新案登録出願をし(昭和二十九年第三二一七号)、拒絶査定を受けたので、抗告審判を請求したところ(昭和三十年抗告審判第九七〇号)、昭和三十三年一月二十日に右請求は成り立たない、旨の審決がされ、同年二月八日にその審決書謄本が原告に送達された事実については、当事者間に争がない。

二、本件出願において原告が実用新案として登録を請求している考案の要旨は、「核分裂爆発せざるように、図のごとく各群に分散したる濃縮ウラニウム等の放射能物質の板或は棒1、2、3、4、……相互間の対向面積を変えて相互放射能反応進行を加減し、もつて総発生熱量を可変ならしむるごとくに、一部の板2、4、……に例えば第1図のごとく回転柄Dを附着、或は第2図のごとく回転軸Cを附着、或は第3図のごとく引柄Bを附着し、或はその変形として一部の棒2、4、6……に引柄Bを附着してなる原子炉或は増殖炉内放射能熱源の構造」というにあり、右説明に符合する第1ないし第4の各図面を添附して登録を出願されたものであることは、真正の成立を認むべき乙第一、第八号証の各一、二(実用新案登録願及び昭和三十年五月六日附訂正説明書)によつて明らかである。そして、原告の右出願を拒絶すべきものとした本件審決の理由とするところを要約すれば、「本件出願はその説明書並びに図面に記載されている四種類の互に異なる構造のものを含んでおり、不特定多数の型について実用新案登録を請求しているから、要旨不明といわざるをえず、またその作用効果も不明瞭である。そして、実用新案法第一条にいう物品の型とは物品の特定の型を指すものであるから、結局本件出願は実用新案法第一条の登録要件を具備しない。」というに帰すること、真正の成立を認むべき乙第九号証(審決書)に徴して明らかである。(審決の理由が、本件出願は、その作用効果が不明瞭である。との点を含んでいることについては、当事者間に争がない。)

三、ところで、本件出願が数種の型を含んだものであることは、原告も認めるところであるが、実用新案法第一条により登録を請求し得べき物品の型は特定せるものであることが必要であり、本件出願におけるがごとく、ある着想を根幹とし、その実現形態としては「例えば」として数種の型を羅列したに過ぎないものは、型として特定せるものであるとも言い難い。原告は、これらの型は相類似のものであるから、包括して登録に値する、と考えているようであるが、ある型が他の型と類似であるかどうかは、ある型が登録された実用新案の権利範囲に属するかどうかを考えるについて関係することであつて、登録を請求し得る実用新案の型が特定せるものでなくてはならぬ、ということとは、別の問題である。

原告は、更に、もし数種の型についての登録が許されないものとすれば、特許庁はまさに出願を一個の型に限定すべき旨を命ずべきであるのに、これを怠つた違法がある、と主張するが、真正の成立を認むべき乙第三号証(拒絶理由通知書)によれば、本件につき特許庁審査官は、昭和三十年四月十三日附をもつて、「本願は特定の構造について登録を請求しているものではなく、……結局要旨構造不明と認められるから、実用新案法第一条の考案とは認められない。」旨指摘して、拒絶理由の通知をしていることが認められるから、特許庁にそれ以上に訂正指令をなすべき義務はないものというべく、原告の右主張も亦これを採用することができない。

原告は、また、審決が本件出願の構造の作用効果不明瞭なりとしたことを攻撃するが、本件出願が特定の型についてなされたものでない点でとうてい許されないものであること、前に認定したとおりであるから、右出願書類においてその考案の奏すべき作用効果が明瞭に説明されているか否やについては、そのいずれであつても、右出願の拒絶さるべきであるとする結論には影響がない、というべきである。

その他の原告の所論は、本件のごとき数種の型の登録出願を許さるべきものとする前提に立つものであつて、その前提の容れられないこと前記の通りである以上、これらの主張の理由のないことは、明らかである。

四、原告の本件出願は、結局実用新案法第一条の登録要件を欠くことになり、これを拒絶すべきものとした審決は相当であるので、その取消を求める原告の請求を理由なきものと認め、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内田護文 原増司 入山実)

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